2015年12月15日

カボスの気持ち

 俺、猫。
 名前は最近カボスって呼ばれている。
 何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないが多分、「かっこいいボス」とか、「かわいいボス」を略したんだろうなと、勝手に思ってる。ヨーコさんと別れた今、それを確かめる術は無いけど。

 俺、基本的に人間は信用していない。
 なんでかって、簡単だよ。俺は一度完璧に捨てられたからさ。
 捨てられる前は、東京の何とか(猫にはわからん)って街で親兄弟と前の飼い主と仲良く生活していたんだ。
 兄弟は全部で7匹。俺はその中で長男になる。
 さすがにこれだけ兄弟が多いと飼い主も大変だったんだな。俺たちは養子に出される事になった。
 体の小さい、弟や妹から順に貰われていき、しばらく経った日に俺のすぐ下の妹が貰われていった時、
「次は俺の番だなぁ。新しい家でも頑張ろう。」と思ったのさ。
 ところが、ちょっと飼い主の様子がおかしかったって言うのは後からは分かるけど、その時は気付けなかったんだ。
 夜、もう暗くなってから車で家から離れた小さな公園に連れていかれたんだ。
「ここで新しい飼い主と対面なのかな?」って思った。
 でもそんな人物は現れず元の飼い主もいつの間にか居なくなっていた。
「おいおい、こんなトコに置いてけぼりかよ!」
 そう、体のでかくなった俺だけ結局里親を見つけられず、飼い主が選んだ結論は“捨てる”そういう事だったんだ。
 参ったね。もう人間なんて信用できねーよ。ちくしょー、腹が立つのに腹が減ってどうしようもねー。
 といっても、もともと俺は飼い猫。野良と違って自分で自分の食事の世話が出来ない。
 頑張ってもネズミどころか虫一匹捕まえられない。というか、ちょっと怖い。
 話の分かる野良の先輩がいたら、頼み込んで弟子にさせてもらうけど、そんなに美味い話なんて無い。
 逆に、通りすがりの家の飼い犬には吠えられて、悪いのは俺じゃないのに、逃げて隠れてるしかなくて、
「これから俺はどうすりゃいいんだ。」
「缶詰のキャットフードはもう一生食べられないのかな?いや、それより俺、このまま死ぬのか?」

 やっぱり死にたくないからさ、俺、プライド捨てて勇気振り絞って、道をたまに通り過ぎて行く人間に擦り寄って行ったんだよ。
 自力で簡単に里親が見つけられるなんて思ってなかったけど、何か食べ物にはありつけるかもしれないって期待があったからさ。
 でもまるでダメ。
 いい反応でも頭や背中、喉をなでてくれるくらい。悪い反応の時は蹴りを入れられたり石を投げつけられたり。サイテーだ。
 そんな扱いで俺は、牙を1本失い、鼻と片足を怪我してしまった。
 もう心も体もボロボロになりかけていた。ボロボロになると、いい反応の率はどんどん下がっていく。
「弟や妹たちは、幸せに暮らしているかなぁ。」
 そんな、もう駄目かなって諦めかけた時に、俺とヨーコさんは出会ったんだよ。
 もう体より、心の問題で俺は動く事が出来なかったのに、ヨーコさんは街灯の陰で傷ついて怯える俺を見つけると迷わず捕まえて抱きしめて、なでてくれたのさ。嬉しかったというよりは、びっくりした。でも、また“それだけ”かもしれないし、人間は信用出来ない。
「あー、もう、なでるのはいいから、食べ物くれー」

 今度は本当にびっくりした。
 ヨーコさんは俺の言葉が分かったみたいで俺を自分の住んでいるアパートまで連れて帰ると、ミルク&鰹節をご馳走してくれた。
 そのあと無理やりシャワーを浴びさせられたのは敵わなかったけどおかげでサッパリ。
 九死に一生って、この事だろうなぁ。
 今日は本当に疲れた。これはもしかしたら、夢かもしれないなぁ。眠るのは怖いけど、このままの気分で天国に行けるなら、もう、それでもいいや。
 ヨーコさんが喉をなでてくれている。俺はそれに応える。
 ゴロゴロゴロ・・・・

 次の日、目を覚ましたら、なんと、猫缶が!
 俺が寝てる間にヨーコさんが買ってきてくれたんだ!
「嬉しいよ。有難う。」
「どういたしまして」って、やっぱり言葉通じてる?
 で、その時にヨーコさんは俺に、新しい名前「カボス」をくれたんだ。だから俺、この人に一生ついていくって思ったね。
「ヨーコさん、これから宜しくです!」
 でもそれにはヨーコさんは答えてくれなかった。。。

 ある日、ヨーコさんと俺の住むアパートに荷物が届いた。ケージだった。
 ケージったって、つまり持ち運びの出来る“檻”みたいなもんだ。小型の犬族ならそういうのも似合うかもしれないけど猫はどうかと思う。ちょっとヨーコさんのセンスを疑った。
「俺をここに入れて、どっか行くのにつき合わすつもり?」
 ヨーコさんはまた何も応えてくれない。
「猫は飼い主には懐くけど、基本的に自由な動物だから、そんな檻で拘束されるのは苦手なんだよ。」
 またも無反応。おっかしいなぁ。

 その次の日、朝早く来客があった。
 ヨーコさんが慌てて俺を抱きしめてくれた。
 なんか変だぞ!?
「ごめんね。ここじゃ、飼ってあげられないから・・・」
 って、おいおい!
 そんなヨーコさんの様子に気付いて逃げ出したかったけど、悪い予感は的中。俺はあのケージに無理やり押し込められた。
「元気でね」って、「ヨーコさん俺どうなるんだよ?」

 来客者のオッサンは俺の入ったケージを受け取って、そのオッサンの車の助手席に乗せた。
 一瞬の事で何が何だか理解出来ない。車はすぐに走り出した。
 やっぱり俺はまた捨てられたのか?
 それともこのオッサンが俺の新しいご主人か?
 いや違う。このオッサンは運転中、やたら俺に話しかけていた。ヨーコさんの言葉と違って意味はまるで分からなかったけど、どうやらどこかに俺を運ぶのがこのオッサンの役割りらしい。
 くそー、こんな檻、牙さえ2本あったら破ってやるのに。
 抵抗空しく、車は俺とヨーコさんの距離をどんどん引き離して行った。
 それから、オッサンは俺を飛行場に連れて行ったんだ。
“飛行場”って分からなかったけど“飛行機”って乗り物に、ケージごと乗せられて、俺は空を飛んだんだ。
 それからまた別のオッサンの車が俺を運んで、この家に俺は連れて来られた。その間は、いろんな事を思い出していたよ。
 生まれた時の事。兄弟たちの事。楽しかった事。
 捨てられた事。人間に蹴られた事。悲しかった事。
 短い時間だったけど、ヨーコさんと暮らした事。最高に幸せだった事。
 もう、思い残す事無いって事も無かったけど、多分、俺、やっぱり死んじゃうんだろうなって覚悟しちゃったからさ。凄い、怖かったけどさ。。。

 この家の人たちは俺を「カボス君」って呼ぶ。普通に一人前(一猫前)の猫として扱ってくれる。でももう、人間はあんまり信用できなくなっちゃったんだよ。
 ただ、なんとなく、そう、なんとなく、この家の人たちは、俺の好きな人に感じや匂いが似てるんだ。
 だから、またどこかに連れていかれるまでは飼われてやる事にしたのさ。

「カボス君」
 この家の奥さんが話しかけてくれた。
 いつもはこの家族の言葉は何となくそうだろーなーくらいしか分からなかったけど、この言葉ははっきりと分かった。
「もうすぐ夏休みだから、ヨーコが彼方に会いに帰ってくるって。」続きを読む
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2009年04月21日

風は何処に吹く

このまま朝が来るまで


携帯に向き合って


メール送り続けて、待ち続けて




意味なんて無いし


他にする事も無いし


いつの間にか勝手に指も動くし


たぶん誰かも同じだし




下書き&修正&見直し&修正・・・・


本当の言葉は?


見当たらないから検索かけてみる


見つけられないからデコメにする




それでもいい




だけど声が聞きたい時もある


顔も見たい


息遣い感じたい


間に在るもの取り払って


側に居たいよね?


居てほしいよね



誰に?





またメール書いてみる


宛名は後から考える


見つからないから


自分のブログにアップする


一安心



これでまた、メールを待ってられる


朝が来るまで



外は風が強いみたいだ
posted by yoshi at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

夜と朝の間で

空の上にはほぼ半円に欠けた月。


その周りは紫がかった紺。


星はもうほとんど残って無い。


見下ろすと背景をオレンジ色に照らされた街のシルエット。



息を吐くごとに白く霞む。



触媒は外されているようだ。

呼吸と無関係に空気は染み込んでくる。



音は一つ一つがデジタルよりもクリアで、鋭利。

心地よくもあり痛くもある。


間もなく夜は去り


不協和音は完成を見ずに洪水にさらされる。


リセット。
posted by yoshi at 07:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月18日

【創作】その後の“カボスの気持ち”後編

カボスの気持ち
http://nextscene.seesaa.net/article/103221455.html
カボスの気持ち2前編
http://nextscene.seesaa.net/article/104588115.html

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カボスの気持ち 2 後編

 俺、猫。
 名前はカボス君って呼ばれている。
 一人だけ、“君”を付けず“カボス”って呼び捨てしていた人物が居たけど、その人物はどうやら死んじゃったみたい。写真になっちゃった。
 その写真の主ミノル氏は、俺がこの家で最初に心を許した人間だからかなりショックだったけど、人間もやっぱり動物だ。いつかは必ず死ぬ。だからもう諦めるしかない。
 冷たいかもしれないけど、悲しんでばかりいたって、ミノル氏が帰ってくる事は絶対に無い。逆に今生きている俺とか人間が、前向きに生き続けたらいつか、新しい命が生まれる。
 それはもしかしたらミノル氏の生まれ変わりかもしれないし、その位の事は本能で分かるものだ。
 でも、人間は本能が鈍いみたいだな。ミノル氏が旅立ってから1週間が過ぎたけど、この家の空気は相変わらず重いままだ。
 ヨーコさんもやっぱりずっと暗いまま。俺は猫だからこんな時何もしてあげられないのが、逆に悲しいよ。だから、側に寄って声を掛けるのが精一杯。許して、ヨーコさん。

「にゃーん」
「あ、カボス君、お腹すいたの?今日は猫缶出してあげるね。」
「にゃーん」そうじゃないよ、ヨーコさん。
「そっか、慰めてくれてるんだ。」
「にゃーん」
「・・・カボス君は分かるのかなぁ?」
「にゃーん」何が?
「ミノルが天国に行けたかどうか。」
「にゃーん、にゃーん」行けたに決まってるさ。俺最後にミノル氏に魚肉ソーセージ1本まるごと貰ったんだよ。
「・・・だよねー。」
「にゃーん」って、分かってるのかなー?
「あ、ごめんごめん、猫缶だったね。すぐ出すよ。」
「にゃーん」やっぱり分かってなかった。けど、まあいっか。

 何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないけど、ヨーコさんがこんな調子じゃね。聞いたとこでチンプンカンプンの答えが返ってきそう。だからもう勝手に決めたんだ。「かっこいいボス」略して「カボス」に俺はなるんだ。

 この家の住人は、皆まだ落ち込んでいるけど、例外はばあちゃんだ。ばあちゃんは元気そうに振舞っている。見ていてそれが無理してるのは分かるのだけど、とにかく凄いパワーだ。
「ちょっとあなた達、しっかりおしよ。」
「もう、しょうがないね。死人は帰って来ないんだよ。」
「いちいち人が死ぬ度に長い事落ち込んでたら、私ぁどうなるんだい。何人の死に目にあったと思うんだい。」
 ごもっとも。
「人には寿命ってモンがあるんだよ。ミノルの寿命は他人よりちょっとだけ短かった。そういう事さ。」
「にゃーん」猫にも寿命はあるぞ。
「そうだ、猫にもある。生き物には全部ある。」あ、通じたみたい。
「死ぬ命があるから、生まれる命がある。そうやって受け継いでいくものなんだよ。」さすが!ばあちゃん。
 そんな感じで他の家族に発破を掛けるのだけど、俺がパワーを感じるのはそういう事じゃなくて、ばあちゃんはあれから毎日、“事故現場”に花を手向けて、線香をあげに行っているって事だ。
 朝早くに家のお仏壇の遺影に手を合わせて、それから午前なのに全然涼しくない暑い道のりを、30分かけて歩いて行ってる事を、俺は知ってるよ。

 ミノル氏はあの日図書館の帰りに事故にあった。受験とかで夏休みの間も毎日、図書館や塾に通っていたけど、あの日も両方行ってたみたい。一度塾から帰って来た時に俺と時間を潰して(あの魚肉ソーセージの時)、それから暑い家じゃ勉強がはかどらないからっていつもの図書館に行った。人間専用でそこに猫は入れて貰えないから中がどんな風かは分からないけど、噴水のある公園の脇の大きな綺麗な建物だからきっと気持ち良かったんだと思う。俺もよく、噴水の傍のベンチで気持ち良く昼寝させて貰った。
 とにかくミノル氏はその帰り道に、無謀運転の車に撥ねられて死んだんだ。救急車が来た時にはほとんど手遅れで、病院に着いて治療する間も無く旅立ったらしい。

 奥さんは完全に生気を失っている。起き上がる事も出来なくて、一日中寝床に就いたままの日の方が多い。
 ご主人はまた人間のオスの勤めに行き始めたけど、以前のように顔を赤くして帰って来る事や、俺にちょっかい出す事は無くなった。
 ヨーコさんは奥さんの代わりに俺の面倒を見てくれたり、家事をこなしたりしてるけど、ボーっとしてる事が多い。

「こらヨーコ、ぼけっとしてるなら付き合いなさい!そのままだと、あんたあたしより先にボケるよ!」
 ばあちゃんがヨーコさんを誘った。
「え、でも、お母さん寝てるし、そろそろお昼の支度とか・・・」
「あんたの母親は病人じゃ無いんだよ。放っときなさい。」
「カボス君にももう少しでご飯をあげないと・・・」
「じゃ、カボス君も連れてきたらいいだろう!」
 何故か、俺まで付き合わされる事になったけど、出掛けるのに付き合わされる=あの嫌なケージか!うわ、勘弁してくれー。

 猫は自分の死期が近づくと、死ぬ場所に自ら旅立って姿を消す習性があるという風に言われているけど、猫は簡単に死を受け入れる事は絶対しない。旅立つのは、実は“治す”場所に行くのが目的だ。このまま生きられる見込みが無くなったって時、“治す”エネルギーである自然の“氣”を探しに旅立つのだ。この“氣”はどこにでもあるモノじゃないし、時間が経つと以前あった場所に無くなっている事も多い。だからそれこそ気合いを入れて旅に出る。その旅の途中で死を迎える事も多いけど、じっとしているよりずっといいのだ。そう考えると、猫って元々格好いい動物だと思う。
 でも“氣”は本当はあるのかどうかも分からない。“その時”が来ないと分かるものじゃないらしい。だから、分かりたいような、分かりたくないような・・・。
 ミノル氏は人間で、事故だから“氣”を探しに行く暇なんて無かったと思うけど、きっとその前に何か感じていたんだろうな。妙な位気前良かったしさ。それにいつもより、いっぱい俺と喋ったぞ。

「カボス君、もうホントに私って駄目だね。」
「にゃ!?」ってヨーコさん、全然駄目じゃないって。
「おばあちゃんがあんなに頑張ってるのに私は駄目だよ。」
「にゃーん」もう、ヨーコさん、いいかげん元気出そうよ。
「ミノルとは喧嘩ばっかりしてたのに、居ないと思うと凄く寂しい。」
「にゃーん」俺がずっと側にいるよ。・・・ケージ入ってもいいから。
「何してるんだい?行くよ。」ばあちゃん来た。
「おばあちゃん、どこに行くの?」
「ミノルが行った所の見物さ。」
「・・・?」

 やっぱりケージは嫌いだ。あの日の事が猫馬、じゃなくて、トラウマになってる。でも今日は頑張ってヨーコさんに付いていてあげないと。人間社会は適わん。こんな檻に入らないと猫は電車も乗せてくれないなんて。
 しかし、どこまで行くんだろ?腹減ったなぁ。おーいヨーコさん、猫缶タイムが過ぎてるよ・・・
「にゃーん」
「あ、ごめん、缶詰持ってくるの忘れた!」
「にゃーん」うっそー!
「どっかで何か買ってあげるから。」
「にゃーん」がーん。

 とか言いながら、結構遠くまで来たよ。電車を降りた時は、・・・・俺、ちょっと酔ったみたい。駄目。今、何も食べれないです。
 空気が吸いたい。お願いヨーコさん、俺をケージから出して。逃げ回ったり、しないからさ・・・・。
「にゃーん」
「カボス君、もうちょっとだから辛抱し。」ばあちゃんの馬鹿ぁ。
「あー、カボス君、この駅何も売ってないよ。ジュースの自動販売機しか無い。」
「にゃーん」無いって言われると・・・何か食べたくなる。
「しょうがない、もうちょっと我慢。きっとどこかにお店くらいあるよ。」
 
 それから、またしばらくケージの中で揺られながら時を過ごした。
 今度は電車の床に置かれるんじゃなくて、ヨーコさんが手にケージを持って歩くもんだから、揺れは一層激しかった。
 もう景色を見てる余裕なんて無いから、ただケージの窓から必至に空気を吸っていた。
 そうしていると、何となくだけど、段々と空気が変わっていくのが分かった。ちょっとだけ冷たい、汚れの無い新しい爽やかな空気に。
 
 着いた所はもちろん初めての場所だ。ばあちゃんとヨーコさんは違うみたいだけど。
「そっか、ここか。」
「そう、ここ。覚えてたみたいだねぇ。」
「にゃーん」二人ばっかり分かっちゃって、ずるい。
「んー、ここにはね、きっと天国の入り口があるんだ。」
「にゃーん」 
 ケージの檻をようやく開けて貰った。そこは雄大な山の景色を望む、緑溢れる広場だった。そしてその少し奥には、辺り一面の向日葵が、こちらを向いて咲いていた。
 空の青と、山の緑と、向日葵の黄色が、目に入った全てだった。
「にゃーん」すげー。

「カボス君、君には先輩が居たんだよ。」
「子供の頃にね、猫、飼ってたの。」あ、あの黒ブチだ。
「もう、ずっと長い事頑張って生きてたんだけど・・・」
「ヨーコが生まれる前からウチに居たね。あの猫は。」
「にゃーん」
「やっぱりちょっと元気が無くなってきちゃってね。元気を出してもらいたかったの。」
「にゃーん」
「家族で、ここに来たの。ゴンちゃん連れて。」
「にゃーん」ゴンちゃんって言うのか。あの黒ブチ。
「不思議だったよ。元気になったんだよ。ゴンちゃん。」

 小さなヨーコさんと、小さなミノル氏と、でっかい黒ブチの猫が、広場を走ったり転げたりして、遊んでいる姿が見えた気がした。

「帰りにね、ゴンちゃん、とっても嬉しそうな声で鳴いたんだよ。にゃーんって。」
「そして、あの向日葵の森に歩いて行った。」ばあちゃん・・・
「急いで追いかけたけど、見つからなくて、でも、段々暗くなって来ちゃって・・・」
「にゃーん」
「いっぱい泣いたのは私だけだった。ミノルもちょっと泣いたけど、こう言ったんだよ。」

「ゴンちゃん、ここなら元気になれるって思って僕たちと別れたんだよ。最後のにゃーんはお礼だよ、きっと。」

 ばあちゃんが俺に聞いた。
「カボス君、ミノルかゴンはここに居るかい?」
「にゃーん」二人とも、あの森の向こうだよ。
「そうか。やっぱり。達者でなって伝えてくれるかい?」
 そのばあちゃんの目にも、うっすら涙が浮かんでいた。
「にゃーん」


 帰り道に、小さなお店があったので、そこに寄って買い物をして、3人(2人と1匹)の軽いお昼を取った。
 ヨーコさんはパンとミルク。ばあちゃんはおにぎりとお茶。
 俺は、もちろん魚肉ソーセージを買ってもらった。



*****************

一応、完結。
さらにその後の話は今のトコまるで浮かんでないので、あるかどうか。。。
でも、書いた本人の個人的な気持ちとして
カボス君にはまた会いたいと思っています。

カボスの気持ち (1)
http://nextscene.seesaa.net/article/103221455.html

カボスの気持ち2前編
http://nextscene.seesaa.net/article/104588115.html




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2008年08月15日

【創作】ヒーロー

ヒロは50ccのバイクでやって来た。
彼が住むのは愛知県小牧市。
そこから僕が住む神奈川県藤沢市まで4〜500kmはあると思う。
ヒロのバイクは当然高速道路を走れるわけがないから、
延々と下の道で来たのだ。
上京してまだ間もない僕でも、
それがとても凄い事であるのは解る。
絶対に真似などしたいとは思わないが、だけど、
3年ぶりに再会する友人はやはり昔と変わってないな。
などと納得したり、逆に成長を感じたり、
そうして遥々僕に会いに来てくれた事が嬉しかったりした。

僕のアパートにヒロが着いたのは午後の2時くらいだった。
昨日の昼に出発して、夜は屋根のあるバス停のベンチで野宿をしたらしい。
梅雨を間近にしたあの季節、
昼間は夏の気配を感じる事が多少できても、
夜はまだ相当寒かったに違いない。
寝袋なども荷物を見る限り持っていそうもないのによくやるなと思った。

しかし、驚いた事にそんな過酷な旅をしてきた割に
ほとんど疲れを見せず、会うなり、
「おう、飯食わせろ!」と口にした。
ヒロのそのぶっきらぼうな態度も変わってなかった。
友人と数年ぶりの再会というシチュエーションの
美しいイメージは期待していなかったが、
あまりに昔のままだったので、
堪えきれず一瞬の間の後に、爆笑してしまった。
でも、ヒロは笑わなかった。それも昔と同じだ。
笑いを徐々にセーブし、どうにか言葉を返した。
「じゃ近所のラーメン屋でも行くか?」
「いや、ここでいい。飯だけでいいから食わせろ!」
また一瞬間をおいて笑ってしまった。
よほど腹が減ってるのかと思ったが、要は金がもったい無いのだ。
だから外食など出来ない。
かといって同じ歳の男が一人で住むアパートに
まともな食事を期待したりもしない。
でも、米くらいあるだろ?というワケである。
あまりに実情を見透されたので笑ってしまったのだ。
つまり、ヒロも、この僕が変化無いと見たのだ。
残念ながら本当にその通りだった。笑うしかない。

そして、僕は米を友人の為に炊いてやった。
冷蔵庫の中にはきゅうりと卵があったから、それも出してやった。
米が炊けるまでの間、彼はやっぱり疲れていたのだろう。
少し寝ていた。
米はすぐに炊け、彼もすぐに目覚め、遠慮無く僕の食料を食べていた。
三膳を軽く片付けようやく落ち着いた。
再会はそんな感じだった。

中学で知り合って以来、友達関係ではあったが、
いつも行動を共にするほどの仲では無かった。
そのうちそれぞれ別々の高校に進み、
会う機会も無くなるかと思っていた。
そんな時に偶然街のバイクショップで再会、
お互いが好きなバイクの話で盛り上がり、
ツーリングに行ったり、峠を攻めたり、
そうやって親友と呼べる仲にまでなった、と、僕は思っていた。

しかしヒロは県立高校を2年進級直前に退学し、いなくなった。
彼は僕の事を親友とは思ってなかったのかと落胆したのを覚えている。
相談も無し、気配も見せず、
突然にいなくなって何処に行ったのかもわからなかったから
その時の落胆は今でも至極当然だと思う。
ただ、“いなくなった”という点では、僕も同類だから、
ヒロばかり責める事は出来ない。
僕もその翌年に退学し、学生を続ける友人たちの前からいなくなった。

所在が掴めるまで時間が経ってしまった。
5年ぶりの再会だ。
その間、いろんな事で悩んで、乗り越えて、
ぶつかって、戦って、
決着の着かない問題も多く抱えた。
ヒロの事はほとんどいつも、忘れていた。
時々、バイクに乗ると、思い出した。
ヒロはバイクレーサーになる夢を持っていた。
その夢を手に入れる為に行動を起こし、
サーキットのある街へ旅立ったのだ。

「レース、出れるようになったのか?」
「馬鹿か。出るだけなら誰でもできる。」
「じゃあ、やってるんだな?」
「去年は4耐(4時間耐久オートバイレース)に出た。」
「結果は?」
「クラッシュ。」

本当は「早いのか?」と訊きたかった。
でもそれは結局訊かなかった。
ヒロはまた、出るつもりだ。そして勝つつもりだ。
優勝する事ではなく、“走りぬく”という意味で。
そう、ヒロは走り続けている。
クラッシュで怪我をしたかもしれない。
バイクは大破したかもしれない。
精神的ダメージもきっと有ったと思う。
だけど、ヒロは今も走っている。
小牧から藤沢まで、走って来たからじゃない。
「去年は・・・」とヒロは言った。
その言葉の続きは「今年は・・・」だ。

夢はまだ生きている。



ヒロは僕の部屋に2晩泊まり、
3日目の朝、帰っていった。
最初の晩は2人でビールを飲んで馬鹿話ばかりした。
次の日は飲まなかったけど、やっぱり馬鹿話をした。
何も深刻な話などしていない。
信じる事が出来たから、それで良かったのだ。

その後、ヒロとは会っていない。
だから僕の中でヒロはあの時のまま、21歳のままだ。
連絡も取っていないから、正直、生きているかどうかも分からない。
それでも、きっとヒロは今も走っていると思う。
ゴールを目指して。

あの再会の年の夏、
バイク誌に写真を見つけたのが、彼を見た最後だ。

彼は勝った。
次は、僕の番だ。


ユナイテッド・シネマ 最新映画を自動更新でご紹介!
posted by yoshi at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月11日

【創作】その後の“カボスの気持ち”前編

カボスの気持ち 2 前編

俺、猫。
名前は最近カボスって呼ばれている。
何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないが
多分、「かっこいいボス」とか、「かわいいボス」を略したんだろうなと、勝手に思ってる。
ヨーコさんに今更訊くのは、恥ずかしくて出来ないけど。
名前の由来を訊くよりも、ただ顔を合わせるだけでも恥ずかしい。
俺はこの家では「かっこいいボス」でありたいと思ってクールに振舞っているのだが、
ヨーコさんと二人(一人と一匹)で暮らしていた時はそうじゃなかった(ベタベタだった)から、
今度再会したら、この家族の手前、どう対応していいかとかなり悩んでいる。

この家の世話になってまだ半月ほどだが、
この家の家族状況とこの街に住む猫や他の動物の顔ぶれを、多少理解出来るようになった。
この家はつまりヨーコさんの生家で、
ここの家族はヨーコさんの両親とばあちゃんと、ヨーコさんと3歳違いの弟(受験生)、
ほとんど庭で放し飼いにされている鶏の夫婦という構成。
俺は新参者だけど、この家では最初っからそんな俺を特別扱いはせずに、
普通に食事(ドライのキャットフード。猫缶は未。)を出されて後は放っとかれ、
家の中でも外でも自由にさせてもらってる。
とは言っても、別に無視される訳でも無し、時々猫じゃらしをしてくれたり、
肉球をぶにぶに押したり(ちょっと不満だがこれは付き合い。)する。
鶏夫婦はどちらも俺を恐れるようなタマモノじゃなく、
最初近づいた時に威嚇されて、それにビクッとしたらそれ以来は完全に舐められている。
まだガキ猫で、牙も一本無い(前に嫌な人間に蹴られた時に欠けた)からだと思うが、
お前らだって飛べない鳥じゃないか。
まぁ鶏はいつか俺に力が付いたらまた遊んでやるからいいとして、
多少でも関わらなきゃ生きていけないのが人間。
俺は基本的に人間は信用していない。その理由は前にも言った通りなのだが、
唯一の例外が俺の名付け親であるヨーコさんだ。
この家の家族はヨーコさんの肉親らしいから大丈夫だと思うが、
やっぱり油断だけはしないように、付かず離れず付き合っている。
それにしても、たまには猫缶も出して欲しいもんだ。
ヨーコさんとはいつも一緒に食事してたからそうじゃなくても旨かったけど、
今はキッチンの脇で毎回同じドライフードだ。
猫だって飽きる事があるっつうんだ。
最近はヨーコさんの弟のミノル氏がたまにくれる魚肉ソーセージがたまらなくご馳走なんだけど、
そんなんで簡単にキャラ変えて靡くわけにも行かない。俺はクールで格好いいボスなのだ。
もっとも、ミノル氏も別に俺にそれ以上かまう事はほとんど無いので、
この家族の中では比較的にいい距離感を保っている人物だ。
ベタベタするわけで無し、毛嫌いするわけじゃ無し。
魚肉ソーセージは毎日でもいいのだが。
奥さん(ヨーコさんの母親)は、普段から細々とよく動く人だ。
いつもドライのキャットフードを用意してくれているのはこの人で、
顔を合わすのも一番多いから何かと話しかけられる。
ただその内容はほとんど(猫には)意味不明。
ご主人は昼間はどこかへ行っていて顔を見る事は無い。
多分、人間としてのオスの働きをしているのだろう。
ただ、夜になって帰ってくると何だか変で、顔が赤くてフラフラしてるしている事が多い。
そんな時は要注意で、俺にベタベタとちょっかいを出してくる。
急に尻尾を掴もうとしたり、耳たぶを裏返そうとしたり、髭を引っ張られそうになったり。
もちろんそんなのは軽くかわしているけど。
ばあちゃんは多分この家で一番元気な人だ。
朝早くから出かけていくし(ウォーキングって言うらしい)、
昼間も化粧して出かけて行くし(これは謎)。
帰って来たら声が一番でかいから、近所にいれば誰でも分かる。もちろん猫にも分かる。
名前を呼ばれると、怒鳴られたような感じでついビクッとしてしまう。

ところで、この家には俺じゃなくて昔にも猫がいたっぽい。
餌皿とかトイレ砂が古いのが有るとかじゃなくて(それはヨーコさんが俺と一緒に送ってくれたのを使っている)、
玄関のトコに写真があったのを見たんだ。
そこには小さなヨーコさんと小さなミノル氏と、でっかい黒ブチの猫が写っていた。
きっともうこの世にこの猫は居ないんだと思うが、そんな古い写真が飾ってあるのは
他人(他猫)の写真とは言っても少し嬉しい気がする。
そりゃそうさ。猫を愛してるって事だもの。ジェラシーなんて感じないさ。
それに、俺もヨーコさんの部屋で何枚か写真を撮られたけど、正直あのフラッシュが俺は苦手。
だからもうこれ以上は勘弁して欲しい。
フラッシュ無しなら勝手に撮ってくれていいけど、こんな風に飾られるのはなんだか恥ずかしい。
(だって俺は捨て猫だったんだぜ)
だから、この先輩の写真だけはやっぱり飾り続けて欲しいのさ。
そうだな、俺も死んだら、こんな風に飾って欲しいと少しは思うけど、今はまだちょっとな。
でも誰もその黒ブチの事を口にしないのは何かワケでもあるのか?
ま、口にしてても人間の言葉のほとんどは俺には分からないけど。
(※解説:猫の平均寿命は10〜16年。ペットの猫は20年の長寿猫もいるが、逆に野良は4年くらい。俺は元々拾われ猫なので、どう転ぶか分からない。)

「おーい、カボス。」ミノル氏が俺を呼んでる!アレか!?
「ホレ、ソーセージ。」やった!って、俺完全に靡いてるじゃねーか。
でも、軟らかくてウェットで生なあの味はたまらない。
もしかしたら猫缶もこれには勝てないかもしれん。情けないけどミノル氏、君の勝ちだ。
お、しかも今日は初の1本まるごと!どうしたミノル氏、いいのか?
「にゃーん」
「え?あぁ、今日は2本買ったから1本づつさ。」
言葉が通じた?いや、偶然だろう。
そう、いつもは1本の魚肉ソーセージを半分だけ貰っていた。
というか、ミノル氏が食べていたところに俺が偶然通りかかって、
その匂いに反応したらミノル氏が分けてくれたのだ。
その後もミノル氏のそんな場面によく遭遇して(あくまでも偶然)いたら、
今日は最初っから2本になったみたいだ。ありがとう。ミノル氏。
「にゃーん」
「どういたしまして。」
「明日いよいよだなー。」
「にゃーん」ヨーコさんが帰ってくるのだ。
「お土産、猫缶買ってくるってさ。」やった!
「猫缶なんて、この辺でもいくらでも売ってるのにな。」
「にゃーん」でもここで当たった事は無いぞ。
「まぁそーゆーなよ。だからホラ、ソーセージ。」
「にゃーん」 確かに。この味はここで初めて知ったんだ。
「だろ?ご馳走ばっか食ってたら、メタボになるぞ。」
「にゃーん」俺はならないよ。若いし、運動してるし。
「そうだよなー。俺の方が絶対運動不足。」
「にゃーん」そうなのか?
「受験だからなぁ。」
「にゃーん」それ旨いのか?
「お前、にゃーんばっかりだな。分かってんのか?」
「にゃーん、にゃーん」やっぱり偶然だったか。でも俺はミノル氏の言葉、分かったぞ。
「よし、今日は歩いて図書館行ってくる。カボス、じゃーな。」
「にゃーん」

その日、ミノル氏は帰って来なかった。

代わりにってわけじゃないけど次の日、ヨーコさんが帰ってきた。
俺は知らないフリしようとしたのに、
ヨーコさんは俺を見つけるとあの日と同じように、迷わずいきなり捕まえて抱きしめて、なでてくれた。
「ヨーコさん、なでるのはいいから、猫缶くれー」ちょっと恥ずかしかったのもあってそう言ってみた。
「それどころじゃない!」
「は?」

それからが慌しかった。ヨーコさんはそのままどこかに急いで出掛けて行った。
気が付くとこの家には、俺と鶏夫婦しか居なかった。
この日の夜遅くまで誰も帰って来なかった。
最初に帰ってきたのはばあちゃんとヨーコさんで、ひどく疲れていて、とても悲しそうだった。
次に帰ってきたのはご主人で、ひどく顔が赤かったけどそれはいつもと違って、怒っているような、でもやっぱり悲しんでいるような、そんな感じだった。
最後に奥さんが帰ってきたのは朝になってからで、
奥さんの姉妹らしい顔の良く似た人に支えられながら帰ってきた。
その少し前にはばあちゃんとご主人がまた出掛けて行った。
それからも数日、出たり入ったりが繰り返されて、大勢の人が押しかけたりしたけど、やっぱり皆悲しそうだった。

皆が見つめる先には、花に囲まれた、ミノル氏の写真があった。


・・・後編へ続く・・・

***************

“カボスの気持ち”には、モデルになった話があります。
“カボス君”は実名で存在します。
でも、今回のお話はそれとは全く関係の無い
完全オリジナルのフィクションです。

長くなってしまったので前編、後編に分けさせていただきました。
後編もほぼ完成していますが、多少チェックを入れたかったりするので
後日に引っ張らせていただきます。
<(_ _)>



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2008年08月10日

【創作】ママ。

「ねえママ、あとどれくらい?」
「まだ最初のバス乗ったばかりでしょ。これから電車に乗って、後でまたバスに乗るんだから1時間はかかるわよ。」
「一番前の席が良かったな僕。」
「我がまま言わないの。」
「はーい。」

 自分で決めた事とはいえ、一人でこの子を育てるのは本当に疲れてしまった。
 8年前に始めた店が順調だった頃はまだ良かったが、共同経営のパートナーが、店の権利書を勝手に売って失踪してからは、それこそ坂道を転げ落ちるようだった。
 店は他人に取られ、借金を抱えて、水商売にすっかり手を染めた女が働ける場所はやはり水商売。でも、この世界はさほど広いわけじゃないから、そういった噂はすぐに広がる。賃金はほとんど雇う側の言い値。ワケありだとすぐに足元を見られるのだ。
 これまで(これからも?)そんな“ワケ”を抱えた女の多くは、酒の代わりに体を売るようになった。でも私は体を売ったりはしない。そう決めて、死に物狂いで働いた。
 水商売では、賃金以外にも金を手にする事がある。それがチップだ。チップは大抵、下心のある客がお気に入りの女に渡すものだ。だから、下手に受け取ると、後で恐い目に遭う事もある。
 普通のサラリーマンだから良くて、ヤクザがヤバいって事じゃない。最近は普通の男が一番恐い。“普通”を演じてるだけで実はどっか飛んでたりという事があるのだ。
 そんな男はつまらない事を根に持ったり、誰が聞いてもわかるほど面白くも無い冗談を間に受けたりして店が引けるのを待って女の子を待ち伏せしたりするのだ。
 だから私は最初の頃、初めての客からは絶対にチップを受け取らないようにしていたのだが、やっぱり生きていくのには金が要るから、よく相手を見て、その人物と金額が安全な範囲であれば、受け取るようにしていた。
 それでも何度かは待ち伏せされて、必至に走って逃げたり交番に駆け込んだ事もあった。
 そうやって、借金を少しずつ返済して、あと少しで完済という油断をしていた時に、あの男と出会ってしまった。
 決してスマートとは言えない、不器用な外れ気味のストレートで押してくるあの男には、何て言ったらいいか分からない不思議な印象を抱いてしまい、何度目かの時に、つい心と体を許してしまった。

「ねえママ、あとどれくらい?」
「もうすぐ駅よ。ほらあの大きなビル。」
「でもちっともバス動かないよ。」
「駅に近いんだから道くらい混むわよ。我慢しなさい。」
「はーい。」

 この子、陽太はその男との子だ。
 でもその男には既に家庭があった。私は一人で陽太を育てる事にした。
 当然だけど、その男は私と一緒になるつもりは無かったらしく、それを伝えると、うっすらと安堵の表情を浮かべて
「それなら、これから、できるだけの支援はさせてもらう。」と言った。
 何だか裏切られた気がした。悔しくて、憎くて、悲しくて、
「支援?そんなの要らない。」ときっぱり返した。
 後悔はしていない。してるかもしれない。わからない。きっと後悔してるんだと思う。でもそれは支援を断った事じゃなくて、どこからこんな人生が始まっちゃったんだろうっていう後悔。もしやり直せるなら、どこまで私は私を遡ったらいいんだろう。
 そう、私はやり直したいんだ。

(バスのアナウンス)「終点、横浜駅西口です。お忘れ物落し物の無いようにお気を付けください。」
「陽太、降りるよ。荷物持ちなさい。」
「わーい、電車だー。」
「コラっ、走るな。」

 相鉄線急行海老名行き。
 あの男と出会った頃に一人で何度か乗った。
 彼の住む街はどんな街なんだろうと考えた時、ほとんど無意識にそこを目指して乗って、いつも途中で目が覚めたように途中で引き返していた。
 いつの日かそんな事も無くなったけど、今日は絶対に引き返さない。今日は一人じゃないのだから。

「ママ、見て見て。何だか変だよ。さっきから駅いっぱい通り過ぎちゃったよ。」
「この電車は急行だから、ふたまたがわって駅までは止まらないのよ。」
「ふたまたがわか、ふーん。キューコーって止まる駅少ないの?」
「そうよ。その分早く着くからいいでしょ。」
「うん。あ、そっか、きっと9個しか駅に止まらないからキューコーなんだ。」
「あはは・・・」
(※相鉄線急行海老名行きは本当に、横浜を出ると9駅である。)

 そうだ。陽太とこうして出かける事は、今まで・・・、全然無かった。
 私は夜働いて昼間はほとんど寝てるから・・・、仕方が無かったっていうのは言い訳ね。休みの日もあったのに、いつも疲れてる事を理由にして、ほとんどかまってあげられなかった。
 それなのに陽太はいつも私を気遣っていた。一人で遊ぶ事にも文句なんか言った例が無かった。
 夜間保育所に陽太を預けに行く時、いつも保育所が楽しいって言っていた。
「僕、保育所でいい子にしてるから、ママも頑張ってね。行ってらっしゃい。」
 いつもそう言って手を振ってくれた。

「ママ、何個目の駅で降りるの?」
「えっと、あと2個よ。やまとって駅。」

 前に来た時は、「大和(やまと)」で降りた事は無い。
 3つ手前の「希望が丘」か、2つ手前の「三ツ境」で引き返していた。だから、ここからは私も陽太と同じく、初めて見る景色になる。何の変哲も無い住宅街の景色だ。時折見える古い家並みが、この街の歴史を感じさせるくらい。
「大和」は、もしかしたら昔は武家とか住んでいたからそんな名前なのかな。
(※事実、宿場町として栄えていたが、“大和”という地名は近世になってからのものである。)
 ま、私にはどうでもいい事だけど、陽太にはどんな感じで見えてるのかしら。

「あとちょっと?」
「うん。あとちょっとだよ。」
「ママも、お兄ちゃんとお姉ちゃんに会えるのドキドキする?」
「するよ。(別の意味だけど)」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんもドキドキしてるかな?」
「うーん、向こうは今日私たちが来る事知らないから、ドキドキはしてないけどきっとびっくりするよ。」
「そうだねー。でも会ってわかんなかったらどうしよう。だって会った事無いんだよ。」
「分かるよ。だって兄弟なんだから・・・。」

(車内アナウンス)「間も無く、大和です。」

「イェーイ、やまとだー。」
「ちょっと、コラ、陽太!」
「僕、走ったりしないよ。」
「そうじゃなくて・・・・、迷子になったら大変だから手を繋ごう。」
 いつも保育所に行く道すがら繋いでいる手が、こんなにも小さかったんだと改めて思った。

 初めての駅のバスロータリーは分かり辛く、やっと見つけた路線図と時刻表を見ると、発車時間ギリギリでその小さい手を強く握って早足でかけた。陽太も一生懸命に走っていた。

「ふー、間に合った。」
「やったー、一番前の席だー。」
「良かったじゃん。きっといい事あるんだよ。これから。」
「いい事?えへへ。」

 本当にいい事があるかどうかは分からない。きっと辛い目にも遭うと思う。でも、絶対に、彼方にとってこれが“いい事”なんだよ。一生懸命やってきたけど、やっぱりママ駄目だよ。
 君には兄弟がいるって事を話したのはね、本当の話。でも、その兄弟とはママが違うの。
 お兄ちゃん、お姉ちゃんと仲良くする為にはね、ママは二人いちゃ、いけないんだよ。

「ママ、ママ?」
「何で泣いてるの?お兄ちゃんたちに会えるのが嬉しいの?」
「・・・うん。そうよ。ごめんね・・・」
「大丈夫だよ。ママには僕がついてるから。」
(ごめんね、陽太)

 停留所を降りた所で、最後の勇気を振り絞って言った。

「陽太、ごめん、お土産買ってくるの忘れちゃった。ママ、すぐ買ってくるから、この手紙持って先に行っててくれる?」
「えーっ、じゃ、僕も一緒に行くよ。」
「我が侭言わないの。ほら、この道行った所に茶色い屋根のお家が見えるでしょ?そこだから。」
「嫌だよ。ママと一緒じゃなきゃ。」
「ママの言う事が聞けないの?ほらしっかりなさい。お兄ちゃんとお姉ちゃんも陽太がいい子じゃ無かったらガッカリするでしょ。」
「・・・・わかったよ。でも、ママも早く来てよ。」
「うん。買い物済んだらすぐ行くから。この手紙はちゃんと渡すんだよ。あんたが説明するより分かりやすく書いてあるから。」
「・・・うん。分かった。」

 あの手紙には、陽太がその家の主人の子供である事と、陽太の母親である私が親権を放棄する事、陽太の今後の面倒を見てやって欲しいという事を書いていた。陽太はあの家に入って行き、あの男の奥さんに手紙を渡した。

 その後の事は、想像する事すら耐えられない。
 家主のあの男以外は全員揃った家で、陽太は罵声を嵐のように浴びせられ、泣き喚かれ、狂乱の世界にその小さな身を預けてしまった。
 そして、ワケの分からなくなった陽太は気絶し、救急車で病院に運ばれる事になった。
 あの男は家族に呼び出され、接待ゴルフからその病院に向かった。陽太が意識不明のまま、あいつは家族に事実を話し、そして私を探した。

 死のうとしていた。
 さっき陽太と来た道のりの逆を辿っていた。
 出来れば、陽太に私の死を知られたくなかったから、遠くで死のうと思った。
 でも、何処に行く事も出来ず、結局死ねなかった。大和駅で足がすくんで動けなくなった。
 陽太の声が聞こえた。
「ママ、ママ・・・」

 あの男が私を見つけたのはそのすぐ後だった。大和駅のベンチに座ってたら、見つけて下さいって言ってるようなものね。
 陽太の事を聞いて、今度はじっとしていられなくて、気が付いたら、私は陽太の眠るベットの傍にいた。



 あれから、私は夜の仕事を辞めて、昼間に働いている。
 アルミサッシを作る工場で、サッシ本体にクレセントと呼ばれるターン式の鍵を取り付ける作業をしている。
 稼げる金額は以前の半分も無い。だけど借金は完済したし、贅沢さえしなければちゃんと生きていける。
 陽太は夜間保育から、昼間の普通の保育所に変わって、とても元気にしている。
 あの時のショックはかなり大きかったみたいで、完全にその部分の記憶が欠落しているけれど。
 正直、その記憶はもう戻って欲しくないけど、それは甘い考えだと自分で思う。

 ただ、これからはもう何があっても、太陽の下を生きていく。
 もう私は、陽太を裏切るような馬鹿な真似は絶対しないから。
 これからは、陽太の為だけに、生きていくから。
 陽太が私を愛してくれた分、いや、それ以上に私は陽太を愛さなくてはならないの。
 だから、陽太、お願い、ずっと私を、ママって呼んでくれる?



 ママ、僕、覚えてるよ。
 ママはちゃんと迎えに来てくれた。
 いつも保育所で寝ちゃって、起きたらいつもお家だったみたいに。
 あのお兄ちゃんとお姉ちゃんには、別のママがいたから、間違いだったんだよね。
 あの時はとっても恐かったけど、ちょっとだけは嬉しかったんだよ。


 ママはやっぱり僕だけのママだって。




******************


重いな。うーむ。


ドイツミュッシェンバッハに社を構えるトロイカ社は、高品質なギフト製品のメーカーとして設立された。今日のトロイカは、ドイツ..

posted by yoshi at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月09日

【創作】始まりのメール

・・・メール受信・・・
 2008/ 8/19 23:50
 FROM:K.Sawamura
 Subject:報告
 内容:お疲れ様です。今日も遅くなってしまったので一先ずメールにて失礼します。
 例の案件は本日無事に最初の壁を越えました。先方の希望とこちらの提示がほぼ一致を見たので、ようやく次のステップに進めます。
 いろいろ有り難うございました。明日報告書が出来たら、上に上げる前にそちらのPCに送っておきますので、それもご覧になってくださいね。
 P.S.本当は電話でも掛けられればいいのですが、なかなか時間が取れないのが申し訳無いです。夜分にすみませんでした。

・・・メール返信・・・
 2008/ 8/19 23:56
 To:K.Sawamura
 Subject:Re.報告
 内容:ご報告感謝です。でも、もうこの仕事は私の手を離れているし、沢村君があれから後の事は全部やってるのだから気にして貰わなくてもいいのよ。
 だから報告書は不要です。明日からはつまりもっと忙しくなるんでしょ?だったら私に今出来るアドバイスは2つよ。体を壊さないように。それと自信を持って堂々と。
 P.S.おまけのアドバイス。私だからメールでもいいけど、彼女にはちゃんと電話もしてあげろよ。ふられちゃうぞ。おやすみ。
・・・送信・・・

・・・メール受信・・・
 2008/ 8/20 0:12
 FROM:K.Sawamura
 Subject:Re.2報告
 内容:すみません。まだ起きていらっしゃったんですね。あの、今電話していいですか?

・・・メール返信・・・
 2008/ 8/20 0:14
 To:K.Sawamura
 Subject:おやすみなさい
 内容:
・・・送信・・・

・・・着信・・・
(嘘っ。何なのこの子。)
「もしもし。」
「もしもし。すみません。遅くに。」
「・・・・。うん。まあいいよ。何?他に何か悩みでも?」
「あ、いえ、そうじゃなくて、アドバイス・・・」
「アドバイスがどうかした?ああ、本当に体大事にしなよ。今は彼方がチームリーダーなんだから大変だと思うけど、適度に仕事は皆で振り分けないとバテちゃうからね。」
「有り難うございます。でもそれじゃなくて・・・。」
「・・・?変な子ね。やっぱり疲れてるんじゃない。もう休んだ方がいいよ。」
(あんまりこちらから話す事も無いしね。)
「付き合ってる彼女はいません。」
「ん?あぁ、ゴメンゴメン。それは冗談だよ。」
「好きな彼女ならいます。」
(?・・・ふーん。そりゃまあそうだろうな。)
「だから、電話、しました。」
(・・・え〜っ!ってこの子幾つ下だっけ???)
「・・・あんまり元上司をからかうモンじゃないよ。」
「からかってません。・・・おやすみなさい。」
・・・回線切断・・・
(私が寝れなくなっちゃうじゃないよ。馬鹿。)

・・・メール受信・・・
 2008/ 8/21 8:42
 FROM:K.Sawamura
 Subject:報告書
 内容:予定より1日遅れですが先日までの報告書、PCの方に送ってありますので、後で時間のある時にでも見てください。
(言いたい事はそれだけかー?それとも昨日のあの電話は30ウン歳独身女の妄想!?)
(違う。ちゃんと履歴残ってる!って、何で私、こんな凄い年下の子にドキドキしてるの?)
(絶対、ぜ〜ったいアレはからかわれたんだ。失礼しちゃう。まだ私アラ4行ってないぞ。これからだっちゅーに。)

・・・メール受信・・・
 2008/ 8/22 9:25
 FROM:K.Sawamura
 Subject:今後の事
(嘘っ。ドキドキしてる私。一方的に告っといて2日間も放ったらかしなんて失礼しちゃう。今後の事って何よ?)
 内容:一昨日開かれた役員会で、今回の企画が高く評価されました。
 ただちょっと問題が発生です。原油高の影響で、予算が当初予定されていたものより大幅に削減されてしまいました。80%カットです。
(えーっ!20%減の間違いじゃないよね?ちょっとって問題じゃないよー。)
 それで、外注は不可能になってしまいました。しかも本社のチームを解散、再編して、コスト面で有利なアジアでやる事になります。
 ぎりぎりそこで形を作ってから、2〜3年経ったらまた日本に持ち帰るというプランです。
 来月から僕はそこでチームリーダーを務める事になります。
(それって、つまり・・・)


(あーもー、まだ凄く暑いのに外回りばっかりで嫌だなー。経費削減で社用車は使えなくなったし。)
(マレーシアってどうなんだろ?日本より南なんだからきっともっと暑いわよね。)
(もう彼は行っちゃうんだね。同じ社内なのに、また会う機会無くなっちゃった。)
(しょうがない。私は営業、彼は企画。彼のチームは元は私が作ったって言っても、自信過剰でチームを無視して走っちゃったのは私だしね。)
(そのチームも解散か。何だか私申し訳無いよ。皆に合わせる顔が無い。)

・・・ローミング着信・・・
(国際電話?彼から?)
「もしもし。」
「もしもし。」(彼の声だ)
「来ちゃいました。マレーシア。」
「行っちゃいましたか。マレーシア。」
「やっぱり遠いんですけど、思ってるよりは近かったです。」
「・・・・。」
「何だか恥ずかしいですけど・・・、最後に貰ったメールのおかげで頑張る気持ちになれってゆーか・・・」
「なれたってゆーか?」
「だってやるっきゃ無いじゃん。俺、本気だから。」
「あ、タメ口聞いたな。」
「す、すみません。」


〜2週間前〜

・・・メール受信・・・
 2008/ 8/22 23:01
 FROM:真理さん
 Subject:Re.今後の事
 内容:何て言ってあげたらいいのか難しくて、返事が遅れてしまいました。ごめんなさい。
 あんまりいい展開とは言えないみたいね。でも、企画は評価されたわけでしょ?
 こんなに社会全体が不景気なのに、予算も出してもらえて、しかもその責任者として完全に任されたわけでしょ?私は素直に凄いと思うよ。
 うちのアジアの拠点って言ったら旬の北京じゃコスト掛かるからきっとマレーシアだよね?携帯もメールも繋がるし良かったかも。
 顔が見れないのは今と変わらないからね。時差もあんまり無いでしょ?
 大変だけどさ、縁が切れちゃうわけじゃないし、チャンスだと思うし、君には絶対力があると思うし、私も応援してるから、頑張ってみれば?
 P.S.こないだのアレは正直びっくり。でもこの歳になるとそんな冗談は通じないんだぞ。
 向こうで頑張って私よりも出世して帰って来たら絶対本気に取るからね。その時は、責任を取るように(笑)



**************

凄く恥ずかしいんですけど、完全(ついさっき)創作です。
文中、登場人物の名前も響きで選んだというか、単なる思い付きです。
凄く恥ずかしいんですけど、感想など頂けたら嬉しいです。


いつでもどこでも手軽に楽しく学習できます。
中学受験にも対応!

posted by yoshi at 20:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月20日

カボスの気持ち

俺、猫。
名前は最近カボスって呼ばれている。
何でカボスかって言うのは
名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないが
多分、「かっこいいボス」とか、
「かわいいボス」を略したんだろうなと、勝手に思ってる。
ヨーコさんと別れた今、それを確かめる術は無いけど。


俺、基本的に人間は信用していない。
なんでかって、簡単だよ。俺は一度完璧に捨てられたからさ。
捨てられる前は、東京の何とか(猫にはわからん)って街で
親兄弟と前の飼い主と仲良く生活していたんだ。
兄弟は全部で7匹。俺はその中で長男になる。
さすがにこれだけ兄弟が多いと飼い主も大変だったんだな。
俺たちは養子に出される事になった。
体の小さい、弟や妹から順に貰われていき、
しばらく経った日に俺のすぐ下の妹が貰われていった時、
「次は俺の番だなぁ。新しい家でも頑張ろう。」
と思ったのさ。


ところが、ちょっと飼い主の様子がおかしかったって言うのは
後からは分かるけど、その時は気付けなかったんだ。


夜、もう暗くなってから車で
家から離れた小さな公園に連れていかれたんだ。
「ここで新しい飼い主と対面なのかな?」って思った。
でもそんな人物は現れず
元の飼い主もいつの間にか帰ってしまった。
「おいおい、こんなトコに置いてけぼりかよ!」
そう、体のでかくなった俺だけ結局里親を見つけられず
飼い主が選んだ結論は“捨てる”そういう事だったんだ。
参ったね。もう人間なんて信用できねーよ。
ちくしょー、腹が立つのに腹が減ってどうしようもねー。


といっても、もともと俺は飼い猫。
野良と違って自分で食事の餌を捕ることがイマイチ出来ない。
頑張ってもネズミどころか虫一匹捕まえられない。
話の分かる野良がいたら、頼み込んで弟子にさせてもらうのに
どうやらこの辺にはそんな猫はいないのか、姿が見えない。
逆に飼い犬には吠えられまくって
いったい俺はどうすりゃいいんだ。
缶詰のキャットフードはもう一生食べられないのか?
いや、それより俺、このまま死ぬのか???


やっぱり死にたくないからさ、俺、プライド捨てて
道をたまに通り過ぎて行く人間に擦り寄って行ったんだよ。
自力で簡単に里親が見つけられるなんて思ってなかったけど
何か食べ物にはありつけるかもしれないって期待があったからさ。
でもまるでダメ。
いい反応でも頭や背中、喉をなでてくれるくらい。
悪い反応の時は蹴りを入れられた。サイテーだ。
そんな扱いで俺は、牙を1本失い、鼻と片足を怪我してしまった。
もう心も体もボロボロになりかけていた。
ボロボロになると、いい反応の率はどんどん下がっていく。

弟や妹たちは、幸せに暮らしているかなぁ。。。


もう体より
心の問題で俺は動く事が出来なかったのに
ヨーコさんは傷ついて怯える俺を見つけると
迷わず捕まえて抱きしめて、なでてくれたのさ。
「あー、もう、なでるのはいいから、食べ物くれー」

びっくりした。
ヨーコさんは俺の言葉が分かったみたいで
俺を自分の住んでいるアパートまで連れて帰ると
ミルク&鰹節をご馳走してくれた。
そのあと無理やりシャワーを浴びさせられたのは敵わなかったけど
おかげでサッパリ。
九死に一生って、この事だろうなぁ。
今日は本当に疲れた。
これはもしかしたら、夢なのかもしれないなぁ。
眠るのは怖いけど、このままの気分で天国に行けるなら
もう、それでもいいや。
ヨーコさんが喉をなでてくれている。
俺はそれに応える。
ゴロゴロゴロ・・・・


次の日、目を覚ましたら、なんと、猫缶が!
俺が寝てる間にヨーコさんが買ってきてくれたんだ!
「嬉しいよ。有難う。」
「どういたしまして」って、やっぱり言葉通じてる?
で、その時にヨーコさんは俺に、新しい名前「カボス」をくれたんだ。
だから俺、この人に一生ついていくって思ったね。
「ヨーコさん、これから宜しくです!」
でもそれにはヨーコさんは応えてくれなかった。。。


ある日、ヨーコさんと俺の住むアパートに荷物が届いた。
ケージだった。
ケージったって、つまり持ち運びの出来る“檻”みたいなもんだ。
小型の犬族ならそういうのも似合うかもしれないけど
猫はどうかと思う。ちょっとヨーコさんのセンスを疑った。
「俺をここに入れて、どっか行くのにつき合わすつもり?」
ヨーコさんはまた何も応えてくれない。
「猫は飼い主には懐くけど、基本的に自由な動物だから、
そんな檻で拘束されるのは苦手なんだよ。」
またも無反応。おっかしいなぁ。


その次の日、朝早く来客があった。
ヨーコさんが慌てて俺を抱きしめてくれた。
なんか変だぞ!?
「ごめんね。ここじゃ、飼ってあげられないから・・・」
って、おいおい!
そんなヨーコさんの様子に気付いて逃げ出したかったけど
悪い予感は的中。俺はあのケージに無理やり押し込められた。
「元気でね」って、「ヨーコさん俺どうなるんだよ?」

200807190929000.jpg

来客者のオッサンは俺の入ったケージを受け取って
そのオッサンの車の助手席に乗せた。
一瞬の事で何が何だか理解出来ない。
車はすぐに走り出した。
やっぱり俺はまた捨てられたのか?
それともこのオッサンが俺の新しいご主人か?
いや違う。
このオッサンは運転中、やたら俺に話しかけていた。
ヨーコさんの言葉と違って意味はまるで分からなかったけど
どうやらどこかに俺を運ぶのがこのオッサンの役割りらしい。
くそー、こんな檻、牙さえ2本あったら破ってやるのに。
抵抗空しく、車は俺とヨーコさんの距離をどんどん引き離して行った。


あれから、オッサンは俺を飛行場に連れて行ったんだ。
“飛行場”って分からなかったけど
“飛行機”って乗り物に、ケージごと乗せられて、俺は空を飛んだんだ。
それからまた別のオッサンの車が俺を運んで
この家に俺は連れて来られた。
その間は、いろんな事を思い出していたよ。
生まれた時の事。兄弟たちの事。楽しかった事。
捨てられた事。人間に蹴られた事。悲しかった事。
短い時間だったけど、ヨーコさんと暮らした事。最高に幸せだった事。
もう、思い残す事無いって事も無かったけど
多分、俺、やっぱり死んじゃうんだろうなって覚悟しちゃったからさ。
凄い、怖かったけどさ。。。


この家の人たちは俺を「カボス君」って呼ぶ。
普通に一人前(一猫前)の猫として扱ってくれる。
でももう、人間はあんまり信用できなくなっちゃったんだよ。
ただ、なんとなく、そう、なんとなく、
この家の人たちは
俺の好きな人に感じや匂いが似てるんだ。
だから、またどこかに連れていかれるまでは
飼われてやる事にしたのさ。


「カボス君」
この家の奥さんが話しかけてくれた。
いつもはこの家族の言葉は何となくそうだろーなーくらいしか分からなかったけど
この言葉ははっきりと分かった。


「もうすぐ夏休みだから、ヨーコが彼方に会いに帰ってくるって。」



********************

追記'08/08/18
 カボス君にまた会いたくて、その後の「カボスの気持ち」を創作しました。読んでもらえたら嬉しいです。
 2つに分けてあるので、カテゴリ「創作モノです(#^.^#)」
http://nextscene.seesaa.net/category/5483946-1.html
から日付順に見てください。



キャットシッターなんりが
”猫暮らし”の極意を教えます。

posted by yoshi at 06:52| Comment(4) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月06日

エリーのゆかいな仲間たち

〜海の中の楽しい一日〜

がんばれ!!みんな!!
よがあけた。さかなが「おはよう!!」とつぶやいている。あたりはきれいな、あさやけが見える。どこかで、タツノオトシゴが、
「いてててて!!石がおもいよ〜」とさけんでいる。さかなは、(カクレクマノミ)
「タツノオトシゴがんばれ!!」
とおうえんしながらあさごはんをたべている。そして、タツノオトシゴが、やっと石をどけたとき、かいそうダンサーが、
「あさあさダンスー、1、2、3」
とへんなおどりをしている。それを見ていたタツノオトシゴは、どこかにいってしまった。つぎはサメくんが、はをみがいていた。どうやらコンテストをやっているようだ。エントリーナンバー3ばんは立ちうお。
「おす、オレ3ばん立ちうお。」
と言うと、とくいな、かみずもうをはじめた。
「はっけようい、のこった!!(わら)」
と言うと、みんなは、わははとわらった。けっきょくかったのは、青せんしゅ。いっきに、赤をなげわざしょうり!!エントリーナンバー4はさっきのタツノオトシゴ。てれてれしながら、さかなにとっては、どくのさくらんぼを
「いっただきま〜す」
と、げん気にのみこんだ。みんな、
「大じょうぶ?しなないでね!!」
と、みんな口々に言っている。でもタツノオトシゴは、
「どくのみ、大せいこう!!ヒューヒュー」
と、へんにはりきっている。つぎは、ウミユリ。
ウミユリは、わらいながらげいをした。
「え〜。せかい一、おそいかんらん車。のるのも、おりるのもかんらんです。て、なんでやねん!!」
みんなは、ちょっとのあいだし〜んとしたけど、そのあと、いっきに、プッププとわらった。つぎは、ぼくのおかあさん。おかあさんのやることは、すぐわかった。それは、うた。だって、れんしゅう見たんだもん!!おかあさんは、
「ラーラッララーラッラッラー」
と、きれいにうたった。なんかとちゅうで、ねむくなった。けどがんばった。つぎはぼくのこい人。こい人は、じまんのまほうだろうとおもった。こい人は、本とうに、ほう木にのった。い上。だい1コンテスト、おわり。
けっか、ごうかくしゃ、かいそうダンサー、おかあさん、こい人。い上。でももう一人ついか、だって、ごうかくしゃすくないもん。tういか、タコのうみうみおにいさん。しかいが、
「2じしんさコンテスト、一日にどんなことをしてますか?がテーマです。はい、かんがえて〜かんがえて〜。かんがえタイムーおっわっり〜」
と、ながいせりふがつづきそうだ。
「よし、スタンバイ。アユウェリー」
「イエス!!」
と、かいそうダンサーがゆった。どうやらえいごのれんしゅうか〜と、おもった。かいそうダンサーは
「=(’%$#””&(L’E$(%#!$|‘*P=!)?LP{”」
と、なにか、いみふめいわかったのは、ハローだけ。
かいそうダンサーはまたいみふめいな
「(&’’&%#*{‘T&W$’)!%$’’(””!<?_+P=)!!」
と、ゆっている。つぎは、おかあさん。おかんは、
「ジュージュー」
といった。わからない。
「トントン」
「わかった!!おりょうり!!」
わっ、ナレーターのこえでちゃった。
「ピンポン」
どうやら、クイズのようだ。なんだかしらないが、
「みんながんばれ!!」
と言ってしまった。
つぎは、こい人だった。こい人はげん気におよいだ。
4ばんめは、タコにいさん。なにをするのかなと思うと、かいそうをちぎってなにかをつくっていた。
「はい、これはイスで、これは、つくえ」
はく手がまきおこった。けっかはっぴょうは、ごうかく人、おかあさん、タコにいさんだった。
「そんでは、さいごのコンテストです。でもその前に、テーマはっぴょうです。このコンテストに、どうしてでたのですか?がテーマです。」
「え〜わかりません。」
かあさんが言う。
「それでは、コンテストスタート!!」
おにいさんが先に、きた。
「おにいさん、がんばってネ!!」
「え〜とっ。べつに、とくに、じゅうだいないみでは、ありません。気晴らしにおうぼしただけです。」
しかいが、
「えっそれでごうかく?!」
おかあさんの、ばんが、あっというまに、きた。
「かあさんもがんばってネ!!」
「え〜。やっぱ、ライバルたちに、あうためですかね〜。」
「ステキなことですね」
いよいよ、しんさにまわった。
「え〜と、たった今、けっかが、できました。けっか、はっぴょうです。」
ドラムロールがなりひびく。
「けっか、タコのうみうみおにいさんです。」
はく手がまきおこる。
「ゆうしょうをおさめた、おにいさんにはりょこうけんをさしあげます。どこへいきたいですか?」
「う〜ん、やっぱり、りゅうぐうじょうかな」
「ハイ、わかりました。とにかく、おめでとうございます。」
これだけのことなのに、うみのせかいは、にぎやかだ。
おわり。

************

お察しの通り、エリーのデビュー小説です。
本人の承諾(ミクネタOK)を得て、ここに掲載させていただきました。


●1000ピース●
優しい木漏れ日のキャンバス地パズル

posted by yoshi at 08:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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