2015年12月15日

カボスの気持ち

 俺、猫。
 名前は最近カボスって呼ばれている。
 何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないが多分、「かっこいいボス」とか、「かわいいボス」を略したんだろうなと、勝手に思ってる。ヨーコさんと別れた今、それを確かめる術は無いけど。

 俺、基本的に人間は信用していない。
 なんでかって、簡単だよ。俺は一度完璧に捨てられたからさ。
 捨てられる前は、東京の何とか(猫にはわからん)って街で親兄弟と前の飼い主と仲良く生活していたんだ。
 兄弟は全部で7匹。俺はその中で長男になる。
 さすがにこれだけ兄弟が多いと飼い主も大変だったんだな。俺たちは養子に出される事になった。
 体の小さい、弟や妹から順に貰われていき、しばらく経った日に俺のすぐ下の妹が貰われていった時、
「次は俺の番だなぁ。新しい家でも頑張ろう。」と思ったのさ。
 ところが、ちょっと飼い主の様子がおかしかったって言うのは後からは分かるけど、その時は気付けなかったんだ。
 夜、もう暗くなってから車で家から離れた小さな公園に連れていかれたんだ。
「ここで新しい飼い主と対面なのかな?」って思った。
 でもそんな人物は現れず元の飼い主もいつの間にか居なくなっていた。
「おいおい、こんなトコに置いてけぼりかよ!」
 そう、体のでかくなった俺だけ結局里親を見つけられず、飼い主が選んだ結論は“捨てる”そういう事だったんだ。
 参ったね。もう人間なんて信用できねーよ。ちくしょー、腹が立つのに腹が減ってどうしようもねー。
 といっても、もともと俺は飼い猫。野良と違って自分で自分の食事の世話が出来ない。
 頑張ってもネズミどころか虫一匹捕まえられない。というか、ちょっと怖い。
 話の分かる野良の先輩がいたら、頼み込んで弟子にさせてもらうけど、そんなに美味い話なんて無い。
 逆に、通りすがりの家の飼い犬には吠えられて、悪いのは俺じゃないのに、逃げて隠れてるしかなくて、
「これから俺はどうすりゃいいんだ。」
「缶詰のキャットフードはもう一生食べられないのかな?いや、それより俺、このまま死ぬのか?」

 やっぱり死にたくないからさ、俺、プライド捨てて勇気振り絞って、道をたまに通り過ぎて行く人間に擦り寄って行ったんだよ。
 自力で簡単に里親が見つけられるなんて思ってなかったけど、何か食べ物にはありつけるかもしれないって期待があったからさ。
 でもまるでダメ。
 いい反応でも頭や背中、喉をなでてくれるくらい。悪い反応の時は蹴りを入れられたり石を投げつけられたり。サイテーだ。
 そんな扱いで俺は、牙を1本失い、鼻と片足を怪我してしまった。
 もう心も体もボロボロになりかけていた。ボロボロになると、いい反応の率はどんどん下がっていく。
「弟や妹たちは、幸せに暮らしているかなぁ。」
 そんな、もう駄目かなって諦めかけた時に、俺とヨーコさんは出会ったんだよ。
 もう体より、心の問題で俺は動く事が出来なかったのに、ヨーコさんは街灯の陰で傷ついて怯える俺を見つけると迷わず捕まえて抱きしめて、なでてくれたのさ。嬉しかったというよりは、びっくりした。でも、また“それだけ”かもしれないし、人間は信用出来ない。
「あー、もう、なでるのはいいから、食べ物くれー」

 今度は本当にびっくりした。
 ヨーコさんは俺の言葉が分かったみたいで俺を自分の住んでいるアパートまで連れて帰ると、ミルク&鰹節をご馳走してくれた。
 そのあと無理やりシャワーを浴びさせられたのは敵わなかったけどおかげでサッパリ。
 九死に一生って、この事だろうなぁ。
 今日は本当に疲れた。これはもしかしたら、夢かもしれないなぁ。眠るのは怖いけど、このままの気分で天国に行けるなら、もう、それでもいいや。
 ヨーコさんが喉をなでてくれている。俺はそれに応える。
 ゴロゴロゴロ・・・・

 次の日、目を覚ましたら、なんと、猫缶が!
 俺が寝てる間にヨーコさんが買ってきてくれたんだ!
「嬉しいよ。有難う。」
「どういたしまして」って、やっぱり言葉通じてる?
 で、その時にヨーコさんは俺に、新しい名前「カボス」をくれたんだ。だから俺、この人に一生ついていくって思ったね。
「ヨーコさん、これから宜しくです!」
 でもそれにはヨーコさんは答えてくれなかった。。。

 ある日、ヨーコさんと俺の住むアパートに荷物が届いた。ケージだった。
 ケージったって、つまり持ち運びの出来る“檻”みたいなもんだ。小型の犬族ならそういうのも似合うかもしれないけど猫はどうかと思う。ちょっとヨーコさんのセンスを疑った。
「俺をここに入れて、どっか行くのにつき合わすつもり?」
 ヨーコさんはまた何も応えてくれない。
「猫は飼い主には懐くけど、基本的に自由な動物だから、そんな檻で拘束されるのは苦手なんだよ。」
 またも無反応。おっかしいなぁ。

 その次の日、朝早く来客があった。
 ヨーコさんが慌てて俺を抱きしめてくれた。
 なんか変だぞ!?
「ごめんね。ここじゃ、飼ってあげられないから・・・」
 って、おいおい!
 そんなヨーコさんの様子に気付いて逃げ出したかったけど、悪い予感は的中。俺はあのケージに無理やり押し込められた。
「元気でね」って、「ヨーコさん俺どうなるんだよ?」

 来客者のオッサンは俺の入ったケージを受け取って、そのオッサンの車の助手席に乗せた。
 一瞬の事で何が何だか理解出来ない。車はすぐに走り出した。
 やっぱり俺はまた捨てられたのか?
 それともこのオッサンが俺の新しいご主人か?
 いや違う。このオッサンは運転中、やたら俺に話しかけていた。ヨーコさんの言葉と違って意味はまるで分からなかったけど、どうやらどこかに俺を運ぶのがこのオッサンの役割りらしい。
 くそー、こんな檻、牙さえ2本あったら破ってやるのに。
 抵抗空しく、車は俺とヨーコさんの距離をどんどん引き離して行った。
 それから、オッサンは俺を飛行場に連れて行ったんだ。
“飛行場”って分からなかったけど“飛行機”って乗り物に、ケージごと乗せられて、俺は空を飛んだんだ。
 それからまた別のオッサンの車が俺を運んで、この家に俺は連れて来られた。その間は、いろんな事を思い出していたよ。
 生まれた時の事。兄弟たちの事。楽しかった事。
 捨てられた事。人間に蹴られた事。悲しかった事。
 短い時間だったけど、ヨーコさんと暮らした事。最高に幸せだった事。
 もう、思い残す事無いって事も無かったけど、多分、俺、やっぱり死んじゃうんだろうなって覚悟しちゃったからさ。凄い、怖かったけどさ。。。

 この家の人たちは俺を「カボス君」って呼ぶ。普通に一人前(一猫前)の猫として扱ってくれる。でももう、人間はあんまり信用できなくなっちゃったんだよ。
 ただ、なんとなく、そう、なんとなく、この家の人たちは、俺の好きな人に感じや匂いが似てるんだ。
 だから、またどこかに連れていかれるまでは飼われてやる事にしたのさ。

「カボス君」
 この家の奥さんが話しかけてくれた。
 いつもはこの家族の言葉は何となくそうだろーなーくらいしか分からなかったけど、この言葉ははっきりと分かった。
「もうすぐ夏休みだから、ヨーコが彼方に会いに帰ってくるって。」ごぶ。挨拶すらもう気恥ずかしい。。。
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posted by yoshi at 17:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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