2008年08月18日

【創作】その後の“カボスの気持ち”後編

カボスの気持ち
http://nextscene.seesaa.net/article/103221455.html
カボスの気持ち2前編
http://nextscene.seesaa.net/article/104588115.html

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カボスの気持ち 2 後編

 俺、猫。
 名前はカボス君って呼ばれている。
 一人だけ、“君”を付けず“カボス”って呼び捨てしていた人物が居たけど、その人物はどうやら死んじゃったみたい。写真になっちゃった。
 その写真の主ミノル氏は、俺がこの家で最初に心を許した人間だからかなりショックだったけど、人間もやっぱり動物だ。いつかは必ず死ぬ。だからもう諦めるしかない。
 冷たいかもしれないけど、悲しんでばかりいたって、ミノル氏が帰ってくる事は絶対に無い。逆に今生きている俺とか人間が、前向きに生き続けたらいつか、新しい命が生まれる。
 それはもしかしたらミノル氏の生まれ変わりかもしれないし、その位の事は本能で分かるものだ。
 でも、人間は本能が鈍いみたいだな。ミノル氏が旅立ってから1週間が過ぎたけど、この家の空気は相変わらず重いままだ。
 ヨーコさんもやっぱりずっと暗いまま。俺は猫だからこんな時何もしてあげられないのが、逆に悲しいよ。だから、側に寄って声を掛けるのが精一杯。許して、ヨーコさん。

「にゃーん」
「あ、カボス君、お腹すいたの?今日は猫缶出してあげるね。」
「にゃーん」そうじゃないよ、ヨーコさん。
「そっか、慰めてくれてるんだ。」
「にゃーん」
「・・・カボス君は分かるのかなぁ?」
「にゃーん」何が?
「ミノルが天国に行けたかどうか。」
「にゃーん、にゃーん」行けたに決まってるさ。俺最後にミノル氏に魚肉ソーセージ1本まるごと貰ったんだよ。
「・・・だよねー。」
「にゃーん」って、分かってるのかなー?
「あ、ごめんごめん、猫缶だったね。すぐ出すよ。」
「にゃーん」やっぱり分かってなかった。けど、まあいっか。

 何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないけど、ヨーコさんがこんな調子じゃね。聞いたとこでチンプンカンプンの答えが返ってきそう。だからもう勝手に決めたんだ。「かっこいいボス」略して「カボス」に俺はなるんだ。

 この家の住人は、皆まだ落ち込んでいるけど、例外はばあちゃんだ。ばあちゃんは元気そうに振舞っている。見ていてそれが無理してるのは分かるのだけど、とにかく凄いパワーだ。
「ちょっとあなた達、しっかりおしよ。」
「もう、しょうがないね。死人は帰って来ないんだよ。」
「いちいち人が死ぬ度に長い事落ち込んでたら、私ぁどうなるんだい。何人の死に目にあったと思うんだい。」
 ごもっとも。
「人には寿命ってモンがあるんだよ。ミノルの寿命は他人よりちょっとだけ短かった。そういう事さ。」
「にゃーん」猫にも寿命はあるぞ。
「そうだ、猫にもある。生き物には全部ある。」あ、通じたみたい。
「死ぬ命があるから、生まれる命がある。そうやって受け継いでいくものなんだよ。」さすが!ばあちゃん。
 そんな感じで他の家族に発破を掛けるのだけど、俺がパワーを感じるのはそういう事じゃなくて、ばあちゃんはあれから毎日、“事故現場”に花を手向けて、線香をあげに行っているって事だ。
 朝早くに家のお仏壇の遺影に手を合わせて、それから午前なのに全然涼しくない暑い道のりを、30分かけて歩いて行ってる事を、俺は知ってるよ。

 ミノル氏はあの日図書館の帰りに事故にあった。受験とかで夏休みの間も毎日、図書館や塾に通っていたけど、あの日も両方行ってたみたい。一度塾から帰って来た時に俺と時間を潰して(あの魚肉ソーセージの時)、それから暑い家じゃ勉強がはかどらないからっていつもの図書館に行った。人間専用でそこに猫は入れて貰えないから中がどんな風かは分からないけど、噴水のある公園の脇の大きな綺麗な建物だからきっと気持ち良かったんだと思う。俺もよく、噴水の傍のベンチで気持ち良く昼寝させて貰った。
 とにかくミノル氏はその帰り道に、無謀運転の車に撥ねられて死んだんだ。救急車が来た時にはほとんど手遅れで、病院に着いて治療する間も無く旅立ったらしい。

 奥さんは完全に生気を失っている。起き上がる事も出来なくて、一日中寝床に就いたままの日の方が多い。
 ご主人はまた人間のオスの勤めに行き始めたけど、以前のように顔を赤くして帰って来る事や、俺にちょっかい出す事は無くなった。
 ヨーコさんは奥さんの代わりに俺の面倒を見てくれたり、家事をこなしたりしてるけど、ボーっとしてる事が多い。

「こらヨーコ、ぼけっとしてるなら付き合いなさい!そのままだと、あんたあたしより先にボケるよ!」
 ばあちゃんがヨーコさんを誘った。
「え、でも、お母さん寝てるし、そろそろお昼の支度とか・・・」
「あんたの母親は病人じゃ無いんだよ。放っときなさい。」
「カボス君にももう少しでご飯をあげないと・・・」
「じゃ、カボス君も連れてきたらいいだろう!」
 何故か、俺まで付き合わされる事になったけど、出掛けるのに付き合わされる=あの嫌なケージか!うわ、勘弁してくれー。

 猫は自分の死期が近づくと、死ぬ場所に自ら旅立って姿を消す習性があるという風に言われているけど、猫は簡単に死を受け入れる事は絶対しない。旅立つのは、実は“治す”場所に行くのが目的だ。このまま生きられる見込みが無くなったって時、“治す”エネルギーである自然の“氣”を探しに旅立つのだ。この“氣”はどこにでもあるモノじゃないし、時間が経つと以前あった場所に無くなっている事も多い。だからそれこそ気合いを入れて旅に出る。その旅の途中で死を迎える事も多いけど、じっとしているよりずっといいのだ。そう考えると、猫って元々格好いい動物だと思う。
 でも“氣”は本当はあるのかどうかも分からない。“その時”が来ないと分かるものじゃないらしい。だから、分かりたいような、分かりたくないような・・・。
 ミノル氏は人間で、事故だから“氣”を探しに行く暇なんて無かったと思うけど、きっとその前に何か感じていたんだろうな。妙な位気前良かったしさ。それにいつもより、いっぱい俺と喋ったぞ。

「カボス君、もうホントに私って駄目だね。」
「にゃ!?」ってヨーコさん、全然駄目じゃないって。
「おばあちゃんがあんなに頑張ってるのに私は駄目だよ。」
「にゃーん」もう、ヨーコさん、いいかげん元気出そうよ。
「ミノルとは喧嘩ばっかりしてたのに、居ないと思うと凄く寂しい。」
「にゃーん」俺がずっと側にいるよ。・・・ケージ入ってもいいから。
「何してるんだい?行くよ。」ばあちゃん来た。
「おばあちゃん、どこに行くの?」
「ミノルが行った所の見物さ。」
「・・・?」

 やっぱりケージは嫌いだ。あの日の事が猫馬、じゃなくて、トラウマになってる。でも今日は頑張ってヨーコさんに付いていてあげないと。人間社会は適わん。こんな檻に入らないと猫は電車も乗せてくれないなんて。
 しかし、どこまで行くんだろ?腹減ったなぁ。おーいヨーコさん、猫缶タイムが過ぎてるよ・・・
「にゃーん」
「あ、ごめん、缶詰持ってくるの忘れた!」
「にゃーん」うっそー!
「どっかで何か買ってあげるから。」
「にゃーん」がーん。

 とか言いながら、結構遠くまで来たよ。電車を降りた時は、・・・・俺、ちょっと酔ったみたい。駄目。今、何も食べれないです。
 空気が吸いたい。お願いヨーコさん、俺をケージから出して。逃げ回ったり、しないからさ・・・・。
「にゃーん」
「カボス君、もうちょっとだから辛抱し。」ばあちゃんの馬鹿ぁ。
「あー、カボス君、この駅何も売ってないよ。ジュースの自動販売機しか無い。」
「にゃーん」無いって言われると・・・何か食べたくなる。
「しょうがない、もうちょっと我慢。きっとどこかにお店くらいあるよ。」
 
 それから、またしばらくケージの中で揺られながら時を過ごした。
 今度は電車の床に置かれるんじゃなくて、ヨーコさんが手にケージを持って歩くもんだから、揺れは一層激しかった。
 もう景色を見てる余裕なんて無いから、ただケージの窓から必至に空気を吸っていた。
 そうしていると、何となくだけど、段々と空気が変わっていくのが分かった。ちょっとだけ冷たい、汚れの無い新しい爽やかな空気に。
 
 着いた所はもちろん初めての場所だ。ばあちゃんとヨーコさんは違うみたいだけど。
「そっか、ここか。」
「そう、ここ。覚えてたみたいだねぇ。」
「にゃーん」二人ばっかり分かっちゃって、ずるい。
「んー、ここにはね、きっと天国の入り口があるんだ。」
「にゃーん」 
 ケージの檻をようやく開けて貰った。そこは雄大な山の景色を望む、緑溢れる広場だった。そしてその少し奥には、辺り一面の向日葵が、こちらを向いて咲いていた。
 空の青と、山の緑と、向日葵の黄色が、目に入った全てだった。
「にゃーん」すげー。

「カボス君、君には先輩が居たんだよ。」
「子供の頃にね、猫、飼ってたの。」あ、あの黒ブチだ。
「もう、ずっと長い事頑張って生きてたんだけど・・・」
「ヨーコが生まれる前からウチに居たね。あの猫は。」
「にゃーん」
「やっぱりちょっと元気が無くなってきちゃってね。元気を出してもらいたかったの。」
「にゃーん」
「家族で、ここに来たの。ゴンちゃん連れて。」
「にゃーん」ゴンちゃんって言うのか。あの黒ブチ。
「不思議だったよ。元気になったんだよ。ゴンちゃん。」

 小さなヨーコさんと、小さなミノル氏と、でっかい黒ブチの猫が、広場を走ったり転げたりして、遊んでいる姿が見えた気がした。

「帰りにね、ゴンちゃん、とっても嬉しそうな声で鳴いたんだよ。にゃーんって。」
「そして、あの向日葵の森に歩いて行った。」ばあちゃん・・・
「急いで追いかけたけど、見つからなくて、でも、段々暗くなって来ちゃって・・・」
「にゃーん」
「いっぱい泣いたのは私だけだった。ミノルもちょっと泣いたけど、こう言ったんだよ。」

「ゴンちゃん、ここなら元気になれるって思って僕たちと別れたんだよ。最後のにゃーんはお礼だよ、きっと。」

 ばあちゃんが俺に聞いた。
「カボス君、ミノルかゴンはここに居るかい?」
「にゃーん」二人とも、あの森の向こうだよ。
「そうか。やっぱり。達者でなって伝えてくれるかい?」
 そのばあちゃんの目にも、うっすら涙が浮かんでいた。
「にゃーん」


 帰り道に、小さなお店があったので、そこに寄って買い物をして、3人(2人と1匹)の軽いお昼を取った。
 ヨーコさんはパンとミルク。ばあちゃんはおにぎりとお茶。
 俺は、もちろん魚肉ソーセージを買ってもらった。



*****************

一応、完結。
さらにその後の話は今のトコまるで浮かんでないので、あるかどうか。。。
でも、書いた本人の個人的な気持ちとして
カボス君にはまた会いたいと思っています。

カボスの気持ち (1)
http://nextscene.seesaa.net/article/103221455.html

カボスの気持ち2前編
http://nextscene.seesaa.net/article/104588115.html




posted by yoshi at 09:24| Comment(4) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白く読み進ませて戴きました。
素敵な作品ですね。
私もぜひまたカボス君に会ってみたいです。
頑張ってください。
Posted by moon at 2008年08月24日 07:03
>moonさん

コメントと賛辞、とても嬉しいです。
「カボスの気持ち」はまた次の構想が浮かんできています。
まだそんな段階なのでちょっと間は開くと思いますが、しっかり書き続けて行きたいと思っています。

本当に、ありがとうございました。
Posted by yoshi at 2008年08月24日 07:18
とても可愛らしく、ちょっぴり切ないお話でした。楽しく読ませていただきました。私は猫飼った事無いのですけど、よくおしゃべりしますよね。飼ってみたいです。
Posted by 拾諸填 at 2009年01月05日 21:41
>拾諸填さん

コメントありがとうございました。
最近はいろいろ有り過ぎて、創作するのも止まってましたが、こういうご意見を頂けるとまた書きたくなってきます。
Posted by yoshi at 2009年01月06日 09:15
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