2008年08月15日

【創作】ヒーロー

ヒロは50ccのバイクでやって来た。
彼が住むのは愛知県小牧市。
そこから僕が住む神奈川県藤沢市まで4〜500kmはあると思う。
ヒロのバイクは当然高速道路を走れるわけがないから、
延々と下の道で来たのだ。
上京してまだ間もない僕でも、
それがとても凄い事であるのは解る。
絶対に真似などしたいとは思わないが、だけど、
3年ぶりに再会する友人はやはり昔と変わってないな。
などと納得したり、逆に成長を感じたり、
そうして遥々僕に会いに来てくれた事が嬉しかったりした。

僕のアパートにヒロが着いたのは午後の2時くらいだった。
昨日の昼に出発して、夜は屋根のあるバス停のベンチで野宿をしたらしい。
梅雨を間近にしたあの季節、
昼間は夏の気配を感じる事が多少できても、
夜はまだ相当寒かったに違いない。
寝袋なども荷物を見る限り持っていそうもないのによくやるなと思った。

しかし、驚いた事にそんな過酷な旅をしてきた割に
ほとんど疲れを見せず、会うなり、
「おう、飯食わせろ!」と口にした。
ヒロのそのぶっきらぼうな態度も変わってなかった。
友人と数年ぶりの再会というシチュエーションの
美しいイメージは期待していなかったが、
あまりに昔のままだったので、
堪えきれず一瞬の間の後に、爆笑してしまった。
でも、ヒロは笑わなかった。それも昔と同じだ。
笑いを徐々にセーブし、どうにか言葉を返した。
「じゃ近所のラーメン屋でも行くか?」
「いや、ここでいい。飯だけでいいから食わせろ!」
また一瞬間をおいて笑ってしまった。
よほど腹が減ってるのかと思ったが、要は金がもったい無いのだ。
だから外食など出来ない。
かといって同じ歳の男が一人で住むアパートに
まともな食事を期待したりもしない。
でも、米くらいあるだろ?というワケである。
あまりに実情を見透されたので笑ってしまったのだ。
つまり、ヒロも、この僕が変化無いと見たのだ。
残念ながら本当にその通りだった。笑うしかない。

そして、僕は米を友人の為に炊いてやった。
冷蔵庫の中にはきゅうりと卵があったから、それも出してやった。
米が炊けるまでの間、彼はやっぱり疲れていたのだろう。
少し寝ていた。
米はすぐに炊け、彼もすぐに目覚め、遠慮無く僕の食料を食べていた。
三膳を軽く片付けようやく落ち着いた。
再会はそんな感じだった。

中学で知り合って以来、友達関係ではあったが、
いつも行動を共にするほどの仲では無かった。
そのうちそれぞれ別々の高校に進み、
会う機会も無くなるかと思っていた。
そんな時に偶然街のバイクショップで再会、
お互いが好きなバイクの話で盛り上がり、
ツーリングに行ったり、峠を攻めたり、
そうやって親友と呼べる仲にまでなった、と、僕は思っていた。

しかしヒロは県立高校を2年進級直前に退学し、いなくなった。
彼は僕の事を親友とは思ってなかったのかと落胆したのを覚えている。
相談も無し、気配も見せず、
突然にいなくなって何処に行ったのかもわからなかったから
その時の落胆は今でも至極当然だと思う。
ただ、“いなくなった”という点では、僕も同類だから、
ヒロばかり責める事は出来ない。
僕もその翌年に退学し、学生を続ける友人たちの前からいなくなった。

所在が掴めるまで時間が経ってしまった。
5年ぶりの再会だ。
その間、いろんな事で悩んで、乗り越えて、
ぶつかって、戦って、
決着の着かない問題も多く抱えた。
ヒロの事はほとんどいつも、忘れていた。
時々、バイクに乗ると、思い出した。
ヒロはバイクレーサーになる夢を持っていた。
その夢を手に入れる為に行動を起こし、
サーキットのある街へ旅立ったのだ。

「レース、出れるようになったのか?」
「馬鹿か。出るだけなら誰でもできる。」
「じゃあ、やってるんだな?」
「去年は4耐(4時間耐久オートバイレース)に出た。」
「結果は?」
「クラッシュ。」

本当は「早いのか?」と訊きたかった。
でもそれは結局訊かなかった。
ヒロはまた、出るつもりだ。そして勝つつもりだ。
優勝する事ではなく、“走りぬく”という意味で。
そう、ヒロは走り続けている。
クラッシュで怪我をしたかもしれない。
バイクは大破したかもしれない。
精神的ダメージもきっと有ったと思う。
だけど、ヒロは今も走っている。
小牧から藤沢まで、走って来たからじゃない。
「去年は・・・」とヒロは言った。
その言葉の続きは「今年は・・・」だ。

夢はまだ生きている。



ヒロは僕の部屋に2晩泊まり、
3日目の朝、帰っていった。
最初の晩は2人でビールを飲んで馬鹿話ばかりした。
次の日は飲まなかったけど、やっぱり馬鹿話をした。
何も深刻な話などしていない。
信じる事が出来たから、それで良かったのだ。

その後、ヒロとは会っていない。
だから僕の中でヒロはあの時のまま、21歳のままだ。
連絡も取っていないから、正直、生きているかどうかも分からない。
それでも、きっとヒロは今も走っていると思う。
ゴールを目指して。

あの再会の年の夏、
バイク誌に写真を見つけたのが、彼を見た最後だ。

彼は勝った。
次は、僕の番だ。


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posted by yoshi at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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