2008年08月11日

【創作】その後の“カボスの気持ち”前編

カボスの気持ち 2 前編

俺、猫。
名前は最近カボスって呼ばれている。
何でカボスかって言うのは、名付け親のヨーコさんに聞かないとわからないが
多分、「かっこいいボス」とか、「かわいいボス」を略したんだろうなと、勝手に思ってる。
ヨーコさんに今更訊くのは、恥ずかしくて出来ないけど。
名前の由来を訊くよりも、ただ顔を合わせるだけでも恥ずかしい。
俺はこの家では「かっこいいボス」でありたいと思ってクールに振舞っているのだが、
ヨーコさんと二人(一人と一匹)で暮らしていた時はそうじゃなかった(ベタベタだった)から、
今度再会したら、この家族の手前、どう対応していいかとかなり悩んでいる。

この家の世話になってまだ半月ほどだが、
この家の家族状況とこの街に住む猫や他の動物の顔ぶれを、多少理解出来るようになった。
この家はつまりヨーコさんの生家で、
ここの家族はヨーコさんの両親とばあちゃんと、ヨーコさんと3歳違いの弟(受験生)、
ほとんど庭で放し飼いにされている鶏の夫婦という構成。
俺は新参者だけど、この家では最初っからそんな俺を特別扱いはせずに、
普通に食事(ドライのキャットフード。猫缶は未。)を出されて後は放っとかれ、
家の中でも外でも自由にさせてもらってる。
とは言っても、別に無視される訳でも無し、時々猫じゃらしをしてくれたり、
肉球をぶにぶに押したり(ちょっと不満だがこれは付き合い。)する。
鶏夫婦はどちらも俺を恐れるようなタマモノじゃなく、
最初近づいた時に威嚇されて、それにビクッとしたらそれ以来は完全に舐められている。
まだガキ猫で、牙も一本無い(前に嫌な人間に蹴られた時に欠けた)からだと思うが、
お前らだって飛べない鳥じゃないか。
まぁ鶏はいつか俺に力が付いたらまた遊んでやるからいいとして、
多少でも関わらなきゃ生きていけないのが人間。
俺は基本的に人間は信用していない。その理由は前にも言った通りなのだが、
唯一の例外が俺の名付け親であるヨーコさんだ。
この家の家族はヨーコさんの肉親らしいから大丈夫だと思うが、
やっぱり油断だけはしないように、付かず離れず付き合っている。
それにしても、たまには猫缶も出して欲しいもんだ。
ヨーコさんとはいつも一緒に食事してたからそうじゃなくても旨かったけど、
今はキッチンの脇で毎回同じドライフードだ。
猫だって飽きる事があるっつうんだ。
最近はヨーコさんの弟のミノル氏がたまにくれる魚肉ソーセージがたまらなくご馳走なんだけど、
そんなんで簡単にキャラ変えて靡くわけにも行かない。俺はクールで格好いいボスなのだ。
もっとも、ミノル氏も別に俺にそれ以上かまう事はほとんど無いので、
この家族の中では比較的にいい距離感を保っている人物だ。
ベタベタするわけで無し、毛嫌いするわけじゃ無し。
魚肉ソーセージは毎日でもいいのだが。
奥さん(ヨーコさんの母親)は、普段から細々とよく動く人だ。
いつもドライのキャットフードを用意してくれているのはこの人で、
顔を合わすのも一番多いから何かと話しかけられる。
ただその内容はほとんど(猫には)意味不明。
ご主人は昼間はどこかへ行っていて顔を見る事は無い。
多分、人間としてのオスの働きをしているのだろう。
ただ、夜になって帰ってくると何だか変で、顔が赤くてフラフラしてるしている事が多い。
そんな時は要注意で、俺にベタベタとちょっかいを出してくる。
急に尻尾を掴もうとしたり、耳たぶを裏返そうとしたり、髭を引っ張られそうになったり。
もちろんそんなのは軽くかわしているけど。
ばあちゃんは多分この家で一番元気な人だ。
朝早くから出かけていくし(ウォーキングって言うらしい)、
昼間も化粧して出かけて行くし(これは謎)。
帰って来たら声が一番でかいから、近所にいれば誰でも分かる。もちろん猫にも分かる。
名前を呼ばれると、怒鳴られたような感じでついビクッとしてしまう。

ところで、この家には俺じゃなくて昔にも猫がいたっぽい。
餌皿とかトイレ砂が古いのが有るとかじゃなくて(それはヨーコさんが俺と一緒に送ってくれたのを使っている)、
玄関のトコに写真があったのを見たんだ。
そこには小さなヨーコさんと小さなミノル氏と、でっかい黒ブチの猫が写っていた。
きっともうこの世にこの猫は居ないんだと思うが、そんな古い写真が飾ってあるのは
他人(他猫)の写真とは言っても少し嬉しい気がする。
そりゃそうさ。猫を愛してるって事だもの。ジェラシーなんて感じないさ。
それに、俺もヨーコさんの部屋で何枚か写真を撮られたけど、正直あのフラッシュが俺は苦手。
だからもうこれ以上は勘弁して欲しい。
フラッシュ無しなら勝手に撮ってくれていいけど、こんな風に飾られるのはなんだか恥ずかしい。
(だって俺は捨て猫だったんだぜ)
だから、この先輩の写真だけはやっぱり飾り続けて欲しいのさ。
そうだな、俺も死んだら、こんな風に飾って欲しいと少しは思うけど、今はまだちょっとな。
でも誰もその黒ブチの事を口にしないのは何かワケでもあるのか?
ま、口にしてても人間の言葉のほとんどは俺には分からないけど。
(※解説:猫の平均寿命は10〜16年。ペットの猫は20年の長寿猫もいるが、逆に野良は4年くらい。俺は元々拾われ猫なので、どう転ぶか分からない。)

「おーい、カボス。」ミノル氏が俺を呼んでる!アレか!?
「ホレ、ソーセージ。」やった!って、俺完全に靡いてるじゃねーか。
でも、軟らかくてウェットで生なあの味はたまらない。
もしかしたら猫缶もこれには勝てないかもしれん。情けないけどミノル氏、君の勝ちだ。
お、しかも今日は初の1本まるごと!どうしたミノル氏、いいのか?
「にゃーん」
「え?あぁ、今日は2本買ったから1本づつさ。」
言葉が通じた?いや、偶然だろう。
そう、いつもは1本の魚肉ソーセージを半分だけ貰っていた。
というか、ミノル氏が食べていたところに俺が偶然通りかかって、
その匂いに反応したらミノル氏が分けてくれたのだ。
その後もミノル氏のそんな場面によく遭遇して(あくまでも偶然)いたら、
今日は最初っから2本になったみたいだ。ありがとう。ミノル氏。
「にゃーん」
「どういたしまして。」
「明日いよいよだなー。」
「にゃーん」ヨーコさんが帰ってくるのだ。
「お土産、猫缶買ってくるってさ。」やった!
「猫缶なんて、この辺でもいくらでも売ってるのにな。」
「にゃーん」でもここで当たった事は無いぞ。
「まぁそーゆーなよ。だからホラ、ソーセージ。」
「にゃーん」 確かに。この味はここで初めて知ったんだ。
「だろ?ご馳走ばっか食ってたら、メタボになるぞ。」
「にゃーん」俺はならないよ。若いし、運動してるし。
「そうだよなー。俺の方が絶対運動不足。」
「にゃーん」そうなのか?
「受験だからなぁ。」
「にゃーん」それ旨いのか?
「お前、にゃーんばっかりだな。分かってんのか?」
「にゃーん、にゃーん」やっぱり偶然だったか。でも俺はミノル氏の言葉、分かったぞ。
「よし、今日は歩いて図書館行ってくる。カボス、じゃーな。」
「にゃーん」

その日、ミノル氏は帰って来なかった。

代わりにってわけじゃないけど次の日、ヨーコさんが帰ってきた。
俺は知らないフリしようとしたのに、
ヨーコさんは俺を見つけるとあの日と同じように、迷わずいきなり捕まえて抱きしめて、なでてくれた。
「ヨーコさん、なでるのはいいから、猫缶くれー」ちょっと恥ずかしかったのもあってそう言ってみた。
「それどころじゃない!」
「は?」

それからが慌しかった。ヨーコさんはそのままどこかに急いで出掛けて行った。
気が付くとこの家には、俺と鶏夫婦しか居なかった。
この日の夜遅くまで誰も帰って来なかった。
最初に帰ってきたのはばあちゃんとヨーコさんで、ひどく疲れていて、とても悲しそうだった。
次に帰ってきたのはご主人で、ひどく顔が赤かったけどそれはいつもと違って、怒っているような、でもやっぱり悲しんでいるような、そんな感じだった。
最後に奥さんが帰ってきたのは朝になってからで、
奥さんの姉妹らしい顔の良く似た人に支えられながら帰ってきた。
その少し前にはばあちゃんとご主人がまた出掛けて行った。
それからも数日、出たり入ったりが繰り返されて、大勢の人が押しかけたりしたけど、やっぱり皆悲しそうだった。

皆が見つめる先には、花に囲まれた、ミノル氏の写真があった。


・・・後編へ続く・・・

***************

“カボスの気持ち”には、モデルになった話があります。
“カボス君”は実名で存在します。
でも、今回のお話はそれとは全く関係の無い
完全オリジナルのフィクションです。

長くなってしまったので前編、後編に分けさせていただきました。
後編もほぼ完成していますが、多少チェックを入れたかったりするので
後日に引っ張らせていただきます。
<(_ _)>



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posted by yoshi at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作モノです(#^.^#) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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